[original] みつかい

内輪向け企画300字小説、お題「天使と悪魔」

みつかい

 薄暗い見世物小屋の奥、揺り籠にいたのは天使だった。傍らに立つ、座長と思しき太った男が、こいつ預言をするんですよと耳打ちした。「翼がないな」「死んだ親から這い出てきたときにゃ、だいぶ腐れてまして」天使は痩せて骨と皮ばかりだったが、皮膚は艶々としていやにたっぷりとあり、弛んで層を成す様は、私に異形の猫を思い出させた。「信用できない」「もう当たってますよ、旦那」呆れるような、嘲るような口調で言った男の顔いっぱいにニタニタ笑いが浮かぶ。「あんたはここへ来た」天使の口がもぞもぞと蠢いた。首筋が粟立つ。皺だらけの唇が老人のようにすぼまり、やがて天使は枯れ枝のような舌を震わせ、次なる預言を語りはじめる。

(298字)