ねむる鰐

 鰐のことを考えていた。 空想のなかで、鰐たちは微睡んでいる。 太陽の熱をたっぷり吸ったあたたかい泥に包まれている。爬虫類独特の目は閉じられ、ずらりと並ぶ歯は口中にしまい込まれ、鋭い爪は川底に碇のように食い込んでいる。鱗...

箱入り息子と朝のゴミ

 カラスにつつかれてゴミ捨て場で目覚めるなんて、ドラマか他人の笑い話にしか存在しない状況だと思っていた。だがいま、まぎれもなく俺はゴミ捨て場で無遠慮なカラスどもにつつかれて目ざめ、おまけに裸足だと気がついたばかりだ。 頭...

ダゲレオタイプの庭

 お父様には内緒ですよ。 老エリアーデの芝居がかった台詞回しは、まだ高等学校を卒業したばかりのルーファウスの耳には大仰に響いた。しかし白ける気持ちもつかの間、ルーファウスは目の前に開けていく光景に、すぐさま引き込まれてい...

グレイの独白

 悪いのは私だが、絶対に謝りたくない。 たったひとつの言葉が頭から離れずにループしつづけている。 正確に言うならこれは「たったひとつの言葉」ではない。複数の言葉から成る文章であるし、どちらかといえば思考に近い。 だが同時...

 彼は美しい。 出来たばかりの肖像画を眺め、あらためて私は思う。だが、感慨を新たにしたのは、絵画の完成度が高いからではなかった。むしろその逆だ。 この絵の中に「彼」はいない。 それに気づくのは私と、絵のモデルである当人だ...

指先に塗られた嘘(と本当)

「緊急と伺ったのですが」「もちろん、緊急だ」 たまりにたまった書類仕事を片付けていた午後、ツォンの携帯が震えた。ルーファウスからだった。 ──緊急事態だ、来い。 すべてを放り出して指定の場所に駆けつけてみれば、そこは高級...

(タイトル未定)

<注意> 未完/EDツォンと殺人嗜好ルーファウス。なんでもOKな人向けです。 1.異変2.落下3.私室4.腕 1.異変 「────ッ」 声にならない声をあげ、ツォンの腰掛けたベッドに寝そべる男が弓なりに背を反らす。同時に...