僕の昼

 昼は──
 お日さまが、空の高いところにあるじかんだ。

 ばあちゃんは、畑にいる。
 じいちゃんは、山にいる。
 おれはときどき、こっそり雉を撃ちにいく。
 じいちゃんの銃だから、見つかったらしかられる。

 家にいるより、生きものを撃っているのがたのしい。
 母は寝ている。
 そうじゃなければ、名前をよんでいる。
 おれのこともあるし、ばあちゃんのこともある。
 母は、じいちゃんのことをあまりよばない。
 母は、ばあちゃんのことを、かあちゃん、とよぶ。
 ばあちゃんは、母の母だからだそうだ。
 おれが母をかあさんとよぶと、
 母は
「百之助。あなたは言葉をていねいに。母上様とおよびなさいね」
 としかる。
 でも、おれはかあさんとよぶ。
 かあさん、と声にだすとき、おれはあんまり、かあさん、とおもっていない。
 母、とおもっている。
 母はきづかない。

 母はときおり、しらないひとの名前もよんだ。
 ちがう。
 ほんとうは、しらないひとの名前をよぶときが、いちばんおおい。
 おれは、その名前をきくのがすきでない。
 母がその名前をよぶと、ばあちゃんも、じいちゃんも、きこえないふりをする。
 死んだひとのだから、えんぎがわるいのだそうだ。
 嘘だ。

 おれは、昼があまりすきでない。
 生きものを撃つには、明るいほうがいい。
 よく見えるし、だから、弾も当たる。
 でもそれは、生きものからも、おれが見えているということなのだ。
 おれは、見えたくない。
 家にいても、おれはあまりいない。
 母は、おれが見えないときが、たくさんある。
 見えなくていいのだと、じいちゃんがいった。
 ばあちゃんは泣いたけど、そうなのか、とおれはおもった。
 だから、見えたくない。
 夜がすきだ。
 夜に撃つのは、いっとうきもちいい。
 昼から待つ。
 じっと待つ。
 真っ暗の、そのまた真っ暗になる。
 こわくなんかない。
 真っ暗は、おれのものだ。
 おれがだれだかわからなくなるまで、じっと、じっと、待つのだ。
 すると生きものは、おれがいなくなったとおもって、ほんとうの、嘘でないすがたになる。
 そしたら、殺す。
 ほんとうのすがたになると、生きものは死にやすい。
 だから、死んでいるやつは、ほんとうのすがただとおもう。

 昼は明るい。
 明るいところでは、みんな嘘をつく。
 おれは、ほんとうになるまで
 じっと待つ。

(了)


← WEB拍手