Belong to

 インテリオル・ユニオンから受けた依頼は、BFF第八艦隊に護衛された拠点型AF・ギガベースを破壊するだけの単純な内容だった。そしてVOBで補給艦艇群のど真ん中に突っ込もうと海上を進行中、それは突然やってきた。
「待て、何だ?」
 ブリーフィング内容を確認していたハックスが、息を呑む気配。続いて、普段の彼とは打って変わって切迫した声が告げる。
「VOBに異常発生! このままだと爆発する――ああ、クソッ、間に合わん、強制パージする! 備えろ!」
「おい、嘘だろ――」
 言い終わらない内に凄まじい衝撃に襲われ、レンは一気にバランスを崩した。
「うわッ」
 機体が左に大きく傾ぎ、海面が間近に迫る。腕部の先端が水面を撫で、水飛沫が白い柱となってド派手に立ち上がる。レンはエンジン出力を一気に上げ、そのまま左脚部を軸に体を反転させると無理矢理に体勢を立て直した。水柱が機体の周囲に弧を描く。
「畜生、どうなってやがる……」
 荒い息をつきながら、ホバリングしつつ周囲を見渡す。パージされたVOBの破片が次々と海中に没していくのが見えた。
「レン、無事か?」
 やや心配そうなハックスの通信に我に返り、レンは慌てて応答する。
「ああ、なんとかな。だが、どういうことだ。天下のインテリオルがこんな――」
「奴ら、試作品を寄越しやがった」
 肚の底から絞り出すような低い声でハックスが吐き捨てる。
「し、試作品?」
「企業め、傭兵は体のいい実験台か……?」
 ギリ、という歯軋りの音まで聞こえ、レンは驚く。
 ――ハックスがこんなに怒るなんて、めずらしい。
「ここからは通常推力でギガベースに接近するしかない。遠距離攻撃に気を付けろ。――クソ、忌々しい!」
 企業の遣り口がよほど癪にさわったのか、ハックスの不機嫌はいっこうに治まる気配を見せない。眉間に皺を寄せ、こめかみをひくつかせる彼が目に浮かぶようだ。
「報酬はたんまり頂くぞ。私のリンクスを侮辱したこと、後悔させてやる」
 ブツブツと息巻くハックスに、レンは思わず突っ込んだ。
「誰がお前のだよ」
「なんだ、不満か」
「いいや。まったく」
 それどころか、少し嬉しい。などとは口が裂けても言えない。だが、どうしようもなくニヤけてくる口元までは止められなかった。どうせ向こうに顔は見えまいと、思いきり相好を崩すと、厳しい声が飛んだ。
「おい、ニヤつくな。気持ちの悪い」
「な、何で見えるんだよ!」
「貴様のことなどお見通しだ。集中しろ、馬鹿者」
「……了解」
 渋々答えた途端、長距離砲が機体のすぐそばを掠めた。
「わッ!」
「わ、じゃない! 目標、近いぞ!」
 確かに、無愛想な鉄の箱が、目前に迫っていた。
「せ、接敵成功。カイロ・レン、これよりギガベースを撃破する」
 レンは精一杯の真面目な声で告げた。
 ――俺、報酬は金を貰うより、あんたに逢いたいんだけど。
 その言葉を、懸命に頭から振り払いながら。