ありあまる愛

  恋人かつ上司である男から呼び出しを受け、苦虫を噛み潰したような顔で執務室を出て行った将軍から、ほぼ一時間後に連絡が入った。
 替えの制服を持ってこいと言う。意味もわからず慌てて制服を用意し、 指定された場所に駆けつけてみれば、そこは使用されていない作業用ロッカーだった。
 薄暗いロッカールームに隠れるように佇んでいた我が主人の、服の上半身は無惨にもビリビリに破られていた。
 どう考えてもそういうことだとしか思えない状況に、言葉を失い立ち尽くす。凍りつく私に、将軍は「こんなのいつものことだ」と笑い飛ばしてみせた。
 胸が痛かった。
 そりゃあ、本人たちが納得しているなら、それでいいのかもしれない。恋人関係なのだから、本人たちにしかわからない絆があるのだろう。そもそも、私ごときが口を出していい問題でもない。
 けれど。
 ──ああ、おいたわしい。
 そう思わずには、いられなかった。
だってそうじゃないか。仕事中、昼日中から呼び出され、人気(ひとけ)はないと言ったって、こんな屋外で、そんな風になるまで。
 ──あのケダモノ……!
 何もできない自分が歯がゆくて、噛みしめた奥歯がギリ、と鳴った。
 それでなくても将軍は華奢なのに。それを、あの丈夫な制服が千々に破れるほどにまで、なんて。いったいどれ程かご負担のことでしょうに。
 出すぎた真似だとは充分承知しております。しかし。
 将軍。ミタカは心配です。そこに──愛はあるのでしょうか?

  後日、机の上に「デートDVを知っていますか」と題されたパンフレットを見つけたハックスは、その置かれる理由も、置いた相手もまったく思い当たらず、しばらくのあいだひそかに首を捻ることとなった。