聖バレンタインデーの虐殺

「アーミ、起きろ」
「……ん」
「アーミってば」
「……んん……」
「アーミテイジ!」
「……おはようスイート……そしておやすみ……」
「寝るなおっさん! デート行くって約束しただろ?」
「勘弁してくれよ……お前がゆうべ張り切ったせいでおじさんはもう腰が……」
「おい、今日、14日だぞ? 何のために休み取ったんだよ、アーミ、アーミってば!」
「そんなぎゃんぎゃん喚くなって……だいたい2月14日ってあれだろ、シカゴでギャング抗争があった日だろ」
「……は?」
「何だ、知らないのかお前、物書きのくせに。俗に言う≪血のバレンタイン≫。1929年に起きたギャングの殺し合いだよ。アル・カポネが――おい、冗談だ、拗ねるな」
「……」
「オーイ、ハニー?」
「……」
「……ところで美人さん。その君の美しい黒髪についてる素敵なものは何かな?」
「あんた、いっつもそうだ。そうやって話を反らし……え、髪? あれ、何これ……花?」
「そのとおり。何の花かわかるか?」
「これ……ハナミズキだ」
「あ、なんだよ、取っちまうのか?」
「え……あ……」
「ほい、これでよしと。うん、似合う。あ、そうだ。ブラウニー、ちゃんと食わせてくれよ。せっかく作ってくれたんだ、多少アレでもこの際は食ってやるから」
「は?! ちょ、な、なん、なん」
「なんで知ってるか? ゴミ箱開ければ誰でも気づくだろ。しかもお前、ラッピング用品部屋に出しっぱなしだったぞ。てことは、まだ包んでないんだろ。準備魔のお前が? あり得ないね。つまり、それは――あれ、どした」
「……to you?」
「何だって?」
「“Am I indifferent to you?”(私があなたに関心がないとでも?)」
「お。ハナミズキの花言葉、知ってたのか」
「……知っててこの花……こんなの……クソ……」
「なんだよ、どうしたシュガー、かわいい顔して」
「……あんたのそういう所、本当にムカつく……」
「そりゃ傷つくな。せっかくディナーはプルーム予約しておいたのに――おっと、どうやって予約取ったかは聞くなよ。知らなくていいこともある。…………なあ、言ったろ、今日は≪血のバレンタイン≫だって。言っておくが手加減しないからな、俺は。やるとなったら徹底的にお前のハートを叩き潰してみせ――なんだ、何が可笑しい」
「……なんでもないよ。それよりアーミ」
「なんだ」
「大好きだよ」
「……そう来たか……」

『すべての恋する人たちへ。Happy Valentine’s Day!』