黄金の子ら

 あるはずのない記憶というものを、ひとは誰しもひとつくらいは持っているのだろうか。 大通りと平行する狭い路地を足早に通り抜けながら、ぼんやりそんなことを考えていた。 兄がいた──ようにおもう。 むろん、記憶違いだ。生まれ...

見えない月(部分)

 父は厳格な人でしたから、と魔剣士は言った。「戦うことをしない学者という存在は、世界の重荷にこそなれ、誰のためにもならない。だから必要ない。それが父の考え方でした。ことによると私は、そんな父の世界を変えたくて、学者の道を...

悪鬼の小屋

 ものを食わなくなった。 食わねばいずれ死ぬだろうと高をくくっていたのが、まだ生きている。 いや、死んではならぬ。 男は大きくかぶりを振る。死ぬわけにはいかぬ。おれには、やることがある。 腐りかけた小屋の暗がりで、薄く笑...